糖尿病
糖尿病は、食事で摂った糖をエネルギーに変えるときに必要なホルモンであるインスリンの異常から起こる病気です。インスリンの産生や分泌が不足し、インスリンが十分に働かなくなると、血液の中にブドウ糖が溜まり血糖値(血液中に含まれるブドウ糖の濃度)が上昇したままの状態のことを糖尿病と言います。健康な方でも食事や糖分を多く含むジュース等をとることで、血糖値は上昇します。ただ膵臓から分泌されるインスリン(ホルモンの一種)が働くことで、ブドウ糖は細胞に取り込まれて、脳や体のエネルギー源となっていき、血糖値は正常な数値へと戻ります。
このインスリンが何らかの原因で作用不足を引き起こし、分泌が不足する、分泌量が十分でも効きが悪くなる(インスリン抵抗性)と、ブドウ糖は細胞に取り込まれずに血液中でダブつき、高血糖な状態が慢性的に続くようになります。
高血糖状態が慢性的に続いても自覚症状が出にくく、病状を進行させやすくなります。ある程度まで進むと、異常に喉が渇く、頻尿・多尿、全身倦怠感、体重減少などの症状がみられるようになります。それでも放置が続けば、やがて血管障害が引き起こされます。とくに細小血管が集中する部位(網膜、腎臓、末梢神経)で障害が起きやすく、糖尿病網膜症(失明のリスクがある)、糖尿病腎症(人工透析のリスクがある)、糖尿病神経障害(足壊疽のリスクがある)は糖尿病三大合併症と呼ばれています。また動脈(太い血管)は高血糖状態が続けば動脈硬化を促進させやすく、脳血管障害(脳梗塞 等)、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)、閉塞性動脈硬化症などの重篤な合併症のリスクを上昇させます。食事療法や運動療法、薬物療法などをきちんと行い、血糖値をうまくコントロールして合併症を防ぐことが重要です。
糖尿病の種類
発症の原因については、大きく2つあります。ひとつは1型糖尿病です。これは主に自己免疫反応等によって、インスリンを作成する膵臓のβ細胞が破壊され、インスリンがほぼ分泌されない状態です。ちなみに1型は小児や若い世代の患者様が多いことから、かつては若年糖尿病と呼ばれていました。もうひとつの2型糖尿病は、日本人の全糖尿病患者様の9割以上を占めるとされるタイプです。中高年世代の患者様が多く、日頃からの不摂生な生活習慣や遺伝的要因(糖尿病を発症しやすい体質)が組み合わさるなどして発症するようになります。この場合、インスリンの分泌量が不足している、あるいはインスリンの効きが悪いといったことで、慢性的に血糖値が上昇するようになります。
上記のタイプ以外にも、遺伝子異常をはじめ、何らかの病気(肝疾患、内分泌疾患、膵外分泌疾患 等)、薬剤の影響(ステロイド)など、その他の特定の機序、疾患によるもので血糖値が慢性的に上昇することもあります。また完全な糖尿病ではありませんが、妊娠時はインスリンの働きを抑えるホルモンが分泌されてしまうので、高血糖になりやすくなります。この状態を妊娠糖尿病と言います。
検査について
発症の有無を確認するための検査として行うのが血液検査です。主に血糖値とHbA1cの数値を調べます。診断にあたっての基準となる数値については以下の通りです。
- ①早朝空腹時血糖値が126mg/dL以上、または75gOGTTの2時間値が200mg/dL以上、もしくは随時血糖値が200mg/dL以上
- ②HbA1c値が6.5%以上
治療について
治療の目的は、血糖値をコントロールし、合併症など重篤な病気を発症させないことです。
1型糖尿病の患者様では、インスリンがほとんど分泌されていない状態なので、インスリンを体外から補充していくインスリン療法(インスリン注射)になります。
また2型糖尿病の患者様は、インスリンは分泌されているので、生活習慣の見直し(食事療法、運動療法)から始めていきます。食事療法では、適切とされるカロリー摂取量を守る、バランスの取れた食事(食品交換表を活用する)に努めるなどしていきます。さらに運動はインスリンの働きを改善させますので取り入れます。内容としては激しい運動量は必要なく、息が少し上がる程度の有酸素運動で軽いジョギングであれば1回30分程度で効果がみられるとされています。なお運動を開始するにあたっては、医師に一度ご相談ください。
上記の生活習慣の改善だけでは、血糖値のコントロールが難しいとなれば、併行して薬物療法として経口血糖降下薬も使用していきます。インスリンの分泌が足りない場合はインスリンの分泌を促進させる薬(スルホニル尿素薬、速攻型インスリン分泌促進薬 等)、インスリンの効きが悪い場合はインスリン抵抗性を改善させる薬(ビグアナイド薬、チアゾリジン薬)などが用いられます。このような経口血糖降下薬でも血糖値が改善されないと判断されるとインスリン療法となります。
このほか、別の病気の発症が原因の糖尿病であれば、原疾患の治療を行っていきます。妊娠糖尿病であれば、2型糖尿病と同様に食事療法を行っていきます。それだけでは数値の改善が難しいという場合は、インスリン療法となります。
糖尿病網膜症
糖尿病による高血糖状態が持続し、それによる細小血管障害によって網膜の血管が詰まるなどして損傷し、さらに脆弱な新生血管などの発生によって、網膜内に血液成分が漏れる、出血がみられている状態を糖尿病網膜症と言います。主な症状ですが、黄斑部と呼ばれる網膜の中心までに病変が達しない限り自覚症状は出にくいと言われています。ただある程度進行すると、かすみ目、飛蚊症、視力低下、視野障害などがみられ、さらに放置が続けば失明することもあり注意が必要です。
なお同疾患は糖尿病を発症したからすぐ起きるということはなく、糖尿病に罹患してから発症するまでに10年程度は要すると言われています。ただ、糖尿病をいつから発症したかが明確に判明することはないので、糖尿病と診断された場合は目に異常がなかったとしても定期的に眼科検診を受けられるようにしてください。
治療について
糖尿病網膜症は、病状の進み具合によって3つのタイプ(初期、中期、進行期)に分け、それぞれに応じた治療を行っていきます。
病状の進行が初期の場合、これを単純網膜症と言います。網膜に浮腫や出血(点状)を確認することはできますが、自覚症状は、ほぼありません。この状態であれば、糖尿病治療による血糖コントロールのみで十分です。
また病状が中期まで進行している場合を増殖前網膜症と言います。この場合の血管は虚血状態となっています。それでも眼症状は黄斑に病変が及ばないとみられないとされていますが、閉塞した血管に変わって新たな血管が作られる兆候がある場合は、光凝固療法(レーザー治療)で新生血管を焼き潰していきます。
最も病状が進んでいる状態であれば増殖網膜症と診断されます。この場合は網膜や硝子体にまで新生血管は伸びていき、これらで出血も起きるなどして様々な眼症状がみられるようになります。治療法としては、光凝固療法(レーザー治療)や出血によって濁った硝子体を取り除くなどの硝子体手術を行っていきます。
糖尿病腎症
腎臓は血液をろ過して尿を作るという役割を果たす臓器です。腎臓には細かい血管がたくさん存在しており、糖尿病を発症し、高血糖な状態を放置すると、次第に毛細血管が集中している糸球体と呼ばれる組織(血液をろ過し、老廃物は尿として排出させる働きをする)の機能が低下するようになります。すると体にとって必要とされるたんぱく質なども排出されてしまう、あるいは尿が作りにくくなって老廃物が排出されなく状態になります。さらに病状が進めば、腎不全となって透析治療が必要となってしまうケースもある病気です。ちなみに糖尿病に罹患してから腎症を併発するまでは、10~20年の期間を要するとも言われています。
主な症状ですが、発症初期の段階では自覚症状がみられることはありません。同疾患は病気の進行状態を1~5期に分類していますが、自覚症状が現れるのは3期以降とされ、むくみ、皮膚のかゆみ、食欲不振、体がだるいなどの症状がみられます。また3期で尿中に蛋白尿が含まれていることが確認され、4期で腎機能の低下を血液検査などで調べられるようになります。なお5期につきましては透析療法が必要な状態です。
治療について
腎臓を元の状態にするという治療法は現時点ではありません。この場合、これ以上の進行を抑制するのが目的となります。したがって、血糖をコントロールするための治療をしっかり行っていきます。また高血圧が伴っているのであれば、降圧剤も使用していきます。
また腎不全の状態であれば、低たんぱく食や塩分や脂質を抑えるなどの食制限、透析治療などを検討します。末期の腎不全であれば、透析治療か腎移植をする必要があります。
糖尿病神経障害
神経細胞というのは毛細血管から酸素や栄養を供給されているわけですが、糖尿病の発症によって高血糖状態になると毛細血管は損傷を受け、それによって神経細胞も障害を受けるようになって、様々な症状が起きるようになります。この状態を糖尿病神経障害と言います。
具体的には、自律神経、感覚神経、脳神経などが障害を受けるようになります。自律神経障害としては、立ちくらみ(起立性低血圧)、便通異常(下痢、便秘)、排尿障害、発汗の異常、勃起障害、顔面麻痺などがあります。また感覚神経障害として、両足先から左右対称で起きるとされるしびれ・痛み、冷え(足の後に両手の先でもみられる)のほか、足の感覚が鈍る、こむら返りなどがみられます。このほか脳神経障害によって眼球運動障害が起きることもあります。
治療について
最も大事なのは、血糖値の数値を適切とされる範囲にしっかりコントロールしていくことです(糖尿病の治療が基本です)。また飲酒や喫煙は病状を進行させることにもつながるので、禁煙、禁酒にも努めるようにします。また足の感覚がなくなっているとケガなどに気づかなくなるので、常に足の様子を観察し、早めに異常に対処し、手入れをしていくフットケアも怠らないようにします。なお手足のしびれや痛みが強ければ、それらの症状を緩和させる薬物療法も行っていきます。